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東京地方裁判所 昭和28年(行)45号の2 判決

原告 宮岸宏行

被告 東京国税局長

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和二十八年四月八日なした原告の昭和二十六年分所得税に関する審査の請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告は下谷税務署長に対し昭和二十六年分所得税の確定申告を同二十七年二月二十九日所得額一一〇、〇〇〇円として申告したところ、右税務署長は同年五月二十四日所得額を二一三、五〇〇円と更正決定をした。原告はこれに対し再調査請求をしたが、同年八月二十二日右税務署長は右再調査請求を棄却する旨決定した。これに対し、原告は被告に対し審査の請求をしたが、同二十八年四月八日被告は右審査請求を棄却する旨の決定をした。しかしながら、原告の昭和二十六年分の所得は右確定申告額以上に出るものでないから、右税務署長の決定は違法であり、これを認容した被告の右決定も違法なものである。よつてこれが取消を求める。」と陳述した。

被告指定代理人は請求棄却の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因事実中原告の昭和二十六年分の所得額が一一〇、〇〇〇円である点、並びに、下谷税務署長及び被告のなした各決定が違法であるとの点は争うが、その余は全部認める。」と述べ、更に被告の主張として左の通り述べた。

「(一) 原告宮岸は都電千束町停留所西入り九間通りに面した所に七坪の作業所を有し、動力穴かがりシンガーミシン四台を備えぼたん穴あけ、ズボンすそちどり縫工を業とする者であるが昭和二十六年中の収入及び支出の状況を明らかにする帳簿又は書類等を極めて不完全にしか整理していない。即ち税務官吏の調査に際して収支計算書を提示したが同書記載の売上高は、簡単な得意先別月高を記入した大福帳より転記したもので、日々の取引を記帳した帳簿に基礎をおくものでなく、又売上の九割は掛売であるから、当然日日の売掛記入帳、請求書又は領収書控等が存在すべき筈であるのに、これらを提示しなかつた。支出の面においても右大福帳に糸代、電気代及びミシン修理代の各合計金額を月々登載しているのみで、この真実性を立証するに足りる証憑書類の提示をしなかつた。このような訳で直接資料によつて同年分の所得金額を算出することはできないから、資産増減の計算により所得金額を推定する外なかつた。

(二)(1) 昭和二十六年中における原告の資産の増加額は次のとおりである。

(イ)  建物価額 三〇、〇〇〇円 同年中に造作を行つた部分

(ロ)  自転車一台 八、〇〇〇円 同年中に購入

(ハ)  生計費 二〇三、八一五円 家族五名、一名当り生計費は総理府統計局作成の昭和二十六年消費実態調査年報による東京都における消費者の平均支出金額四〇、七六三円

(ニ)  所得税   三、六〇〇円 同年中に納入

(ホ)  区民税     六四八円 同右

合計        二四六、〇六三円

(2) 同年中の資産の減少額は次の固定資産の減価償却引当金のみである。

項目

取得価額

計算基礎額

耐用年数

償却引当金

ミシン 四台

二九〇、〇〇〇

二六一、〇〇〇

一五

一七、四〇〇

単相モーター 一台

七、五〇〇

六、七五〇

一五

四五〇

自転車 一台

八、〇〇〇

七、二〇〇

一、八〇〇

家屋

二八〇、〇〇〇

二五二、〇〇〇

三〇

八、四〇〇

合計

二八、〇五〇

家屋は二五〇、〇〇〇円で買受け同年中に三〇、〇〇〇円の造作をしたからその取得価額を二八〇、〇〇〇円とした。又償却方法は定額法(所得税法第十条の四、同法施行規則第十二条の十一第一項第一号及び第四項、耐用年数につき固定資産の耐用年数等に関する省令第一条別表一(家屋及び自転車)別表二(ミシン及びモーター)参照)によつた。

以上のとおり昭和二十六年中に原告の資産は二一八、〇一二円増加しており、これは同年分所得金額から支出されたものに外ならないから、原告の同年分の所得金額は少くとも二一八、〇一三円以上であると推認される。従つて原告の所得金額を二一三、〇〇〇円と決定した下谷税務署長の決定は適法であるから右決定を認容し、審求請求を棄却した本件決定はなんら違法でない。」

右被告の主張事実に対し原告は被告主張事実はすべて認めると述べた。

理由

原告の昭和二十六年分の所得税について、原告のなした確定申告、下谷税務署長のなした更正決定、これに対する原告の再調査請求、審査請求、これに対する右税務署長及び被告のなした各決定の各月日及び内容が原告主張の通りであることは当事者間に争いない。

そして原告の右年度における所得を認定するについて、被告が主張する資産増減による計算の内容については原告も全部これを認めるところであり、右被告主張の計算は合理的と認められるから、原告の右年度中の所得額は二一八、〇一三円と認められるよつて原告の所得額をこの範囲である二一三、〇〇〇円と決定した下谷税務署長の決定は適法であり、この決定を認容した被告の本件審査決定は違法でない。

よつてこれが取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

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